福岡高等裁判所 昭和28年(う)2975号 判決
所論にかかる原判示を、判決にあげている証拠に照してみると、判示特殊飲食店紅月の経営者宇佐はる子が、被告人の判示詐欺行為の相手方であり被害者であるようである。そして被害は、花代ビール代サイダー代肴代等計一万千円で、被告人はその支払を免れて財産上不法の利益を得たものであると判示されている。そして判示の証拠によると、右花代なるものは、宇佐はる子方の従業婦の売淫行為の対価ではないかとの疑が濃く、その金額も、前記被害総額一万千円のうち八千円にも達するようである。若し、右にいうところの花代なるものが、前述の意味における売淫行為の対価であるならば、その対価請求権は、明らかに昭和二二年勅令第九号違反の犯罪行為それ自体によるもので、法律上何等の保護も与えられないものである。従つてその限りにおいては、刑法第二四六条第二項の詐欺罪の成立する余地はない。然るに、原判決は、唯単に花代と判示してあるのみで、それが前述の意味における、売淫行為の対価であるか、或はそうでないか、判示のみでは要するに、花代が如何なるものであるか判然しない。原裁判所としてはすべからく、その点を明確になすべきであつたに拘らず、これを怠り、唯単に花代と判示して、これに、刑法第二百四十六条第二項の詐欺罪の成立を直ちに認めたのは、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合に該当するというの外ない。論旨は結局理由がある。
(後略)